ネットギャラリー両界堂 作品 1-1
[ 作品 1-1 ]

深層心理学者
ユングとマンダラ

カール・グスタフ・ユング(1875~1961)はスイス生まれで、精神科医、深層心理学者である。フロイトの精神分析学の国際化に貢献をしたが、フロイトの考え方に同意できなくなり別れた後に、統合失調症になるのではという不安を持つようになった。

無意識から生じてくる夢やファンタジー(空想)、ヴィジョン(幻視)、イマジネーション(想像)を記述し絵を描くうちに不安がなくなり、マンダラとは知らずに中心のある構図の絵を描いていた。

ユングは1928年にリヒャルト・ヴィルヘルムから道教の錬金術(瞑想法)のドイツ語訳の本『太乙金華宗旨(黄金の華の秘密)』が送られてきたときに、自分の描いた絵がマンダラであることに気づいた。
太乙(たいいつ)とは神の名で陰陽二神に分かれる根源の神で、金華とは瞑想の中からひらいてくる黄金の華、金色の光の輪を意味している。これをユングは「マンダラ」と解した。

一方、密教の曼荼羅 (マンダラ)はサンスクリット語で円、輪のことで、宇宙、中心のある聖なる空間、悟りの状態などを表しており、インド、ネパール、チベットなどの密教でつくられている。

ユングは抽象的なマンダラを含めて大小100点くらいの絵やカットを描いたが、本作品はそのうちから4点のマンダラを模写して縮小をして構成したものである。

マンダラの絵は右上から右回りに順に、1916年(最初に描いたマンダラ「世界の体系」)、1919年頃(「白い光と四方位」)、1927年(「 永遠の窓(光り輝く花と星々)」)、1928年(「黄金の城」)に描かれたものである。なお、模写の際には右上のマンダラについては文字などを一部省略した。
いずれのマンダラも中央に大日如来がいる胎蔵界曼荼羅の構図に似ている。

ユングは、マンダラは人類に普遍的な無意識から表われたもので、人格の全体性、中心、光、自己、個性化への道などを表わすものと解釈した。

フロイトは初めて「無意識」を発見したが、性的な要素が強かった。
ユングはさらなる心の深層に人類に共通の普遍的な無意識を発見して、自らの治癒体験や治療体験などをもとに「分析心理学」を築いた。

なお、空海(774~835)は唐の恵果から密教を学び、両界曼荼羅(胎蔵界と金剛界)などを日本に持ち帰り真言宗を開いた。
一方、天台宗では最澄(767~822)の弟子の円仁(794~864)、円珍(814~891)らが唐で密教を学び、安然(841?~897?)が天台密教を完成して、「顕密一如」つまり密教と顕教が一致していることを明らかにした。

顕密の教えを問わずに、心の中心に本尊(大日如来、仏、神など)や光が感じられてエネルギーが得られれば、人間は普遍的無意識にもとづいた真の自己が現われて個性的に生きられるようになるのである。

 

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